
GABBEH <ギャッベ>
遊牧民に伝わる手織りの絨毯
ペルシャ語で”粗い”という意味の「ギャッベ亅はイラン高原の西、ザクロス山脈から南部ファールス高原にかけて住む遊牧民がつくっている毛足の長い絨毯のことを指します。
近年はヨーロッパや日本でギャッベの人気が高まり、敷物や壁掛けのインテリアとして輸出用生産が増加しています。しかし織り手は遊牧民に変わりはなく、ギャッベの集散地はオアシスの古都シラーズにあります。
ギャッベは1cmに5〜6ノット(結び目)と、大変ザックリと織られており、暖かく軽いので移動に便利。山岳地や砂漠など過酷な自然を旅する遊牧民が砂地や岩盤にひく敷物や夜具として、家畜を保護するカバーとして、なくてはならないものでした。
ギャッベは女性が家族の幸せを願って一点一点織り上げます。羊の毛を刈り、糸を紡ぎ、大地に自生する草木で染めて、原始的な織機を使って伝統の手織技術で織るのです。文様は女性たちが心に感じたままに描かれています。家庭円満や子孫繁栄、健康長寿、水への感謝などの思いが込められた、世界にたった一つの絨毯です。文様にはそれぞれの部族ごとに特色があり、花や人、動物、生活、文化、慣習、お守り、モザイクなど様々です。
材質
カシュガイは最大の遊牧民族です。カシュガイ族のギャッベは羊毛のみで織られ、表に出ない縦糸にも羊毛が使用されています。その他、縦糸に綿を使用し堅牢に作られている物もあります。イラン高原の羊の毛の繊維は太く耐久性にすぐれています。羊毛は湿気を吸い取る調湿効果もあるため夏は涼しく、冬は暖かです。
●色彩
雄大な自然を映した色彩は、鮮やかで深みのある美しさです。色彩にも意味が込められています。
・赤 : 健康な子供、エネルギー、元気、躍動感、幸運、繁栄、魔除け
・青 : 空の無限の雄大さ、夜の砂漠、荘厳さ、静けさ
・緑 : 草花が芽吹く大地、草原、豊穣、祝福、自然への感謝
・黄・金 : 国への愛、大切な人に送る時、砂漠、望郷の思い
・白 : 無垢な始まりの色、生命の誕生、新生児を祝う、無限の可能性
●染料
・赤 : 西洋アカネ(ロナス)、ケシの実、コチニール、エンジムシ
・青 : インディゴ、ナスの皮
・黃 : ザクロ、ウコン、ポプラ、サフラン、ターメリック
・オレンジ : ジンジャー
・緑 : ターメリック、ブドウの葉、ジャシール、青と黄の重ね染め
・茶 : クルミの皮、桃・栗の葉
・ベージュ : 染めていない羊の毛の色
天然素材で染めていても、色落ちや色あせで目に見えて劣化することはありません。むしろ、年月を経て少しずつ色合いが変化し、味わい深く育っていくのも魅力の一つです。
●アブラッシュ
アブラッシュとは色むらのこと。草木染め特有の糸の色の濃淡のことです。均質でない、不揃いな色の濃淡が絨毯に深みを与え、ギャッベが魅力的に感じる理由の一つとなっています。
ギャッベの特徴である文様は自然や身近な物をモチーフにしています。織り手の思いや願いが込められており、家族を思い、自然への感謝や敬意を表しています。
● 主な文様
大樹 : 健康、長寿、家、家族の繁栄
生命の木 : 命のモチーフとして、子供の成長、長寿、健康、子孫繁栄
糸杉 : 永遠性、健康、長い木は長寿、砂漠の厳しい環境に耐えながら天空へまっすぐ育っていく姿から「命」
四角形 : 水場、井戸、生命の根源
羊: 子孫繁栄、お金に困らない財産
鹿 : 家庭円満、愛情、家族愛
ラクダ : 富、成功、財産、耐久力
鳥 : 神の使者、飛翔願望、幸福へのあこがれ
孔雀 : 気品のある優美な、美しさ
ザクロ : 子宝、子孫繁栄
ライオン : 王様、深い知恵、豊かな財力、
人・子供 : 誕生、健康
女性 : 多産、愛情
実在のモチーフを写実的に描くというよりも、「自然からの印象」や「記憶に残る風景」を幾何学的に再解釈することが多いでしょう。そのことで、織り手自身の願いや思い、ストーリーが込められていくのです。
●部族
カシュガイ族とは、イラン高原の南西部ザクロス山脈で夏は高原、冬は沿岸部へと年2回の大規模な移動(垂直移動)をするトルコ系遊牧民のことです。
5つの部族【アマレ族、カシュクリ族、シシブルキ族、ダルシェリ族、フェルシマダン族】のことをまとめてカシュガイ族とよびます。これら部族にはそれぞれ個性があり、ギャッベにも特徴、アイデンティティが反映されています。
ルリ族は、主にイラン西部から南西部にかけて暮らすイラン系民族で、ザグロス山脈の険しい山岳と肥沃な牧草地に根を下ろした半遊牧民族です。定住のため技術の継承がされやすく、ルリ族の織ったギャッベ、通称「ルリバフ」は最高品質を誇ると言われています。